サイズとスタイル
とりあえずいろいろな三味線をみてみることにしましょう。一般に三味線は棹の太さに応じて三種類に分類されますが、棹のサイズと、三味線音楽や演奏スタイルは必ずしも一致しないという点です。津軽弾きに中棹を用いたり、長唄を太い棹で演じる場合もあります。特別な流派に属している、または古典伝統芸能を継承するという目的でもないかぎり、とくに棹の太さや名称にこだわる必要はありません。
それでは、たとえば細棹や中棹で津軽三味線を弾くことはできるのでしょうか。よく聞かれる質問です。津軽の曲には太棹でなくてはいけないという決まりはありません。大きな太棹を使うことによって、ダイナミックな音や叩き奏法が楽しめるというだけなのです。かつて津軽地方の演奏家たちはみな細棹や中棹を使って門付の旅をしていました。津軽の巨匠といわれる高橋竹山でさえ、デビュー当時は中棹を使っていたそうです。撥使いや皮の具合などをみながら、どんな楽曲であれ手持ちの三味線でじゅうぶんに楽しむことができます。まずは自分の三味線に合った自分の演奏をしてみて、それから好みの三味線をゆっくり選んでもいいと思います。
太棹
太棹の三味線はその名のとおり棹が太く胴も大きめで、津軽を演奏するときや浪曲、義太夫などに使われています。
太棹のなかでも、津軽民謡を演奏するためのものは一般的に「津軽三味線」とよばれ、やや大きめです。胴には力強い叩き撥に対応できるように頑丈な厚い皮がしっかり張られています。
津軽三味線は義太夫や浪曲に使われていた太棹三味線がベースとなってつくられました。その昔、津軽のボサマたちが門付をして放浪していた頃、太棹は重すぎてとても持ち歩くことができず軽い細棹が用いられていたようです。その後、津軽弾きの独奏者が互いに競い合うようになると、より大音量で威圧感を持たせ、高度な演奏技術ができるようにと三味線自体にも様々な工夫が施されるようになりました。それに応じて撥も比較的小さめで、激しい叩きの奏法に適した柔軟な素材が撥の先端に使われるようになりました。駒はやや低めで8ミリほど。さわりとよばれるジーンと響く効果も活用されています。さらに大胆で派手な奏法と、叩き撥による強い衝撃に耐えられるようにと改良が重ねられてきました。現在では「津軽三味線」という楽器としての地位も確立され、だいたいのカタチが統一されてきましたが、それでも、さわりの調整やエレキ音の効果、ストラップの装着、良質人工皮、すべらない糸巻きなど、演奏家たちのスタイルや好みに合わせてさらなる開発がすすんでいます。まだまだ可能性を秘めた津軽三味線の、今後の発展が期待されます。
義太夫は人形浄瑠璃の一種です。のちに文楽の主流となる義太夫の語り口は、声が大きく音域が広くとても表現ゆたかです。その語りに合わせた義太夫三味線はメロディを弾くのではなく、音色で登場人物の心理や感情をうつしだし、その場の情景を表現する役割があります。その場合、語りに負けない低音の重く響きのある音色や撥音の効果が必要であったと考えられます。このことは以後、歌舞伎音楽にも起用され、それぞれ別のスタイルで芸術的伝統音楽として確立されていきます。義太夫に用いられる撥は大きな三角形で、先端は7ミリほどの厚さがあります。これに比べて津軽三味線用の撥は1〜2ミリほどしかありません。さらに、高さ19ミリもある鉛の入った重い駒が使われます。三味線小物の極端なサイズと撥の厚みが、義太夫スタイル特有の深く重厚なベンベンというユニークなサウンドを引き出しているといえるでしょう。
中棹
太棹より一回り小さい中棹の三味線はさまざまな民謡、地歌、常磐津、清元節などに使われます。
地歌とは江戸時代に西日本で発達した三味線音楽であり、「歌いもの」として日本を代表する伝統音楽のひとつです。また多くの伝統芸能が浄瑠璃や歌舞伎といった舞台とともに発展してきたなかで、純粋に音楽だけに重点をおいて、繊細で心情的な内容を表現した作品が多いのが地歌の特徴です。中棹のなかでも地歌三味線は棹や胴部分が浄瑠璃系よりもやや大きめです。流派によっては細棹よりもさらに小さい三味線を用いることもあります。糸も長唄よりも太く、駒にはおもりを埋め込んだ特別なものを使用する場合があります。地歌の撥は比較的大型で、開きの部分は約14センチにもなるため、撥先が鋭く弾力性があり、細かな技巧を施すのに適しています。長唄や義太夫といった劇場用音楽のように撥音を活かしたドラマティックな表現はほとんどみられません。
民謡は労働や風習など生活の中から生まれ、日本各地で庶民のあいだで歌い継がれてきたものです。人と自然の関わりによって、世代を経て伝えられてきた唄の数々は、日々のさまざまな労働作業に深く根付いているのはもちろんのこと、お座敷唄、祝い唄、儀式などの宗教唄、踊り唄など多種多彩です。そのため、民謡といってもゆっくりとしたテンポの曲から、陽気で楽しい曲、素朴で簡単な曲、情緒のある寂しい曲とさまざまです。一般に三味線のほか笛や太鼓、地域によっては胡弓や多種の郷土民族楽器を使って伴奏されます。民謡の三味線は素朴な音色のする中棹が多く使われますが、太棹、または細棹を使う地域や曲目もたくさんみられます。
細棹
一番小さいサイズの細棹の三味線はおもに長唄、小唄や俗唄などで使われています。
長唄は17世紀末頃、江戸に生まれた歌舞伎音楽です。もともとは歌舞伎役者の台詞に合わせて唄や三味線で情感をあらわしたり、お囃子の太鼓で場面や情景を表現したり、様々な効果音を出すBGMの役割をしていました。幕末になり、お座敷の長唄として演奏用の楽曲が生まれ、浄瑠璃や民謡などいろいろな要素を取り入れながら今の三味線歌曲として発展してきました。長唄の三味線は細棹で、小さい胴、細めの絹糸を使用し、繊細で美しい高音を出すことから明るく華やかな音色に特徴があります。いまではプラスチックや木製もありますが古くから象牙の小さめの撥が使われ、粋で艶のある音色とあざやかな撥さばきが特徴です。
三線
三線(さんしん)は14〜15世紀ごろ中国から伝り、沖縄諸島で一番親しまれている伝統的な楽器です。三味線に似ていていることから沖縄三味線とよばれることもありますが、大きさも違えば材質も違う、なにより音色がまったく異なります。全長役80センチで三味線よりもやや小さめです。棹は黒檀、紫檀あるいは桑などの木材から作られた延べ棹。胴は円形でニシキヘビなどの皮を張ります。一般的には撥を使わず人差し指に水牛の義爪をつけて弾きますが、奄美諸島では長くて細い竹で弾いたり、指やギターのピックなども代用されたりもします。三線は独特なやさしく温かい響きを奏でます。南国沖縄、奄美諸島の豊かな自然、文化を感じることが出来る楽器だといえるでしょう。現在では琉球の古典音楽をはじめ、民謡やポップスなどさまざまなジャンルで用いられ、人々のくらしのなかにとけ込んでいます。
三味線の見分け方
いろいろな三味線があるにもかかわらず、一目みただけではその違いはわかりにくいものです。自分の三味線がどの種類に属するのか見分ける方法をいくつかご紹介したいと思います。
糸巻きをみる
津軽三味線の糸巻きの一番太い部分で直径は約2.5センチ、他のどの三味線にくらべても特大です。下の写真でみてもわかるように、糸巻きの大きさは一目瞭然です。
皮の張り方をみる
胴の部分に張られている三味線の皮を横からみてください。太棹においては皮の糊付部分が約2.5センチほどあります。その他の三味線はどれも5ミリほどしかありません。それほど太棹の硬く厚い皮はしっかりと胴に装着されているのです。
中棹と細棹の違い
糸巻きのサイズをみただけでも津軽三味線は一目で見分けられますが、中棹と細棹の違いは糸巻きではわかりません。棹をよくみてください。胴に近い付け根のあたり、つまり高音を押さえる部分のカタチが違います。細棹では「鳩胸」とよばれ、まるく曲線をえがいていますが、中棹では直線になっているので高音のツボが押さえやすくなっています。
義太夫三味線と津軽三味線の見分け方
義太夫三味線はちょうど長唄三味線と津軽三味線の中間あたりといってよいでしょう。サイズは津軽三味線とほぼ同様で、皮もしっかりと胴に貼付けられて頑丈につくられていますが、棹のつけね部分は長唄三味線を同じく鳩胸になっています。